我輩は猫妖精である

『基本』の『†初めに』には目を通す事!
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日中の森、街道、馬車内、にて―Another―

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    (猫少年が、病院へ運ばれた直後の話)



    静かな病院に慌ただしい足音が響き渡った。
    水色のメッシュが入った黒髪の女(名をハルカという)は、受付を見るなり飛び掛かるような勢いで質問を並べた。

    「すんません!!うち、ヨハネの保護者なんやけど、何処におるんか分かります!?白猫の男の子なんやけど!」

    興奮して息を荒らげるハルカを、受付の女が宥める。今、調べますから、と。
    しかし、その日は重体者が多く入っており、調べるには時間が掛かった。一分一秒すら惜しむ様子のハルカ。病院内という事もあり、流石に怒鳴り散らしたりはしていないが、威圧的である。
    ようよう、ヨハネという名の白猫の少年が重傷で運ばれてきた事が分かった。受付の女は、直ぐさまハルカへと伝えた。直に手術が始まるとも。

    「…ほ、ほんまなん…?・・・そない酷いんか…!」

    ハルカの顔は青ざめていく。心配の色が濃くなる。
    数日前にも病院に運ばれたと聞いたばかりだ。その時は、一泊しただけで帰ってきた程の軽いものだったようだが。
    手術室を教えてもらうと、走って向かう。

    「おおきに!騒がしくしてもて、堪忍な!」

    院内ではやや駆け足くらいにしておくものだが、到底できそうもなかった。
    再び静かな病院に足音が響く。


    息を弾ませて、手術室の近くまで来た。黒猫の姿が見えた。猫少年がいつも連れている黒猫のハディだった。
    黒猫が見えてから程無くして、看護婦がベッドを押してきた。それには、すっかり血の気が無くなっている猫少年が力なく横たわっていた。
    ハッと息を呑む。
    ハルカは歩幅を広げ、足早にベッドへと向かう。

    「…ヨハネ、生きてる…やんな…?」

    これ以上は、と、別の看護婦に制止されはしたが、近付けば外傷の状態が自ずと目に入る。酷いものだった。
    思わず手で口を押さえた。涙が溢れた。
    ヨハネを乗せたベッドが、手術室へと入って行く。扉が閉まりきるまで、見送った。無事に手術が終る事を信じて。
    今にも崩れそうなハルカに、看護婦から近くのソファーに座るよう勧められる。

    「・・・おおきに…」

    消え入りそうな声で礼を言い、ドサリとソファーに座る。黒猫はいつの間にかハルカの足元へと。心配そうに手術室を見つめている。

    「ハディも、心配して来てたんやね…」

    やんわりと黒猫の頭を撫でてやり、ハルカもじっと手術室の扉を見守る。

    猫少年はよく大怪我をしては病院送りになっている。
    その度に心配し、こうやって手術室の前で黒猫と待つのだ。待ってさえいれば、猫少年は元気になって帰ってくる。
    信じて、待つ。



    何度経験しても生きるか死ぬかの境目にいる家族を待つのは慣れない。
    長い長い沈黙。時計と扉に視線をやる。まだ、反応はない。
    刻々と時は進み…。沈黙を破って手術を終えたらしい医師と看護婦が出てきた。
    「! ヨハネは、ヨハネは無事なんやろか?」

    ソファーから弾けるように立ち上がって、医師に詰め寄る。
    医師は頷く。けれども、何処か言い難そうに、口を開いた。

    「手術は成功です。…ただ、集中治療室へ入れなければなりません」

    背骨付近まで傷口が裂けていたり、太ももを貫通しているのが原因だと医師は言う。
    後遺症が出るような部分は傷付いていないのが奇跡的だと、ハルカを励ましてくれた。
    集中治療室へとベッドが向かう。部屋の番号を聞いてから、ハルカは黒猫を連れて歩き出す。

    「…奇跡的、か。…ヨハネはいつもそうやね…」

    同じ奇跡的なら、怪我をしないでいてくれる方がよっぽど良いとは思うのは義姉心か。
    義弟は義弟なりに行動して、結果、大怪我だが奇跡的に助かっているのだ。生きている。それでだけでいいのかもしれない。ハルカは窓越しに部屋の中を覗く。手術前よりは顔色は多少良くなっているのに安堵する。

    「明日から通わな。な、ハディ」

    呟いて、黒猫を見下ろした。黒猫は小さく鳴いて、尻尾を揺らした。きっと、同じような気持ちなのだろう。


    手紙が猫少年宛てに届いたのはこの話から程無くして。
    そっと枕元に置いてやる。
    起きた時に、気付くように、と。
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